フロム・ソフトウェアやKOTOBUKIYAの3Dモデルはどう作られたのか? 【ZBrush Merge2019レポート 前編】

フロム・ソフトウェアやKOTOBUKIYAの3Dモデルはどう作られたのか? 【ZBrush Merge2019レポート 前編】

初めて3DCGに触れた時のことは今でもよく覚えている。1994年、ゲームショップの試遊台に置かれたセガサターン版の『バーチャファイター』だ。

 

今思い出してみればローポリゴンもいいところだけれど、当時の僕は見たことのない映像を凝視し、目を見開いて興奮していた。確かにそれは未来を感じさせる出来事だったのだ。

 

それから20年以上が経ち、映画やゲームの世界では実写と間違えてしまうような高密度の3Dモデルが滑らかに動いている。

 

これらの3Dモデルを作るツールはいくつもあるが、デジタルスカルプトツールとして高いシェアを占めているのがZBrushだ。Pixologic社が提供しているこのソフトは、画面上にポリゴンの塊を浮かべ、まるで手で触るようにモデル造形ができる。

 

3DCGデザイナーならば同ツールを活用している方も多いだろう。ZBrushは2019年にもアップデートが行われ、作業効率の向上や表現の幅を広げる機能が盛り込まれた。

 

クリエイターはとにかく時間がない。通常業務に加え、プライベートな創作も行いたい。より効率的に、頭の中に描いたイメージを描きたいはず。そのニーズにZBrushはどのように応えたのか? 
 

今回は3月23日(土)に行われたZBrushアーティストとコミュニティのイベントZBrushMergeに潜入。

 

2019年の新機能をはじめ、フロム・ソフトウェアのリードキャラクターアーティスト藤巻亮氏や、KOTOBUKIYA造形チームのツチヤトモミ氏の解説など、制作現場での活用法をレポートする。

 

▼目次

2019年アップデートも内容充実、気になる新機能とは?

 Snapshot3D

 非写実的レンダリング(NPR)

 ZRemesher v3.0

フロム・ソフトウェアの藤巻亮氏が考える「魅力的なキャラクター造形のコツ」

 アウトライン

 

 色の明暗

フィギュア作りはフォルムが命、KOTOBUKIYA ツチヤトモミ氏の制作法
 

2019年アップデートも内容充実、気になる新機能とは?

まずはこちらを見て欲しい。ZBrushMergeの開幕を飾った、2019年の新機能を紹介するムービーだ。

 

3Dスカルプトを2Dイラスト風に加工できる『非写実的レンダリング(NPR)』、任意のグレースケール画像(アルファ)を3Dモデルに変換し、ハードサーフェイス(工業製品や無機物)のディテール制作が瞬時にできる『Snapshot3D』など、いずれもスカルプター大喜びの機能である。

 

このムービーの後、Pixologic社で日本マーケティングディレクターを務めるトマ・ルーセル氏が新機能の実演を行なった。プレゼンテーションを追いながら、新機能を詳しく解説していこう。

Snapshot3D

Spotlight v2.0に追加された機能で、テクスチャ情報を3Dモデルに変換してブーリアンの加算・減算ができる。生成されたモデルはスカルプトのベースやパーツとして利用でき、銃やタンクなどメカニカルなディテールを効率よく作成できる。

写真のパーツは実演で制作されたもの。このような複雑な形状もわずか数十秒で完了できる。

非写実的レンダリング(NPR)

一見ペイントソフトで描いたように見えるこの画像だが、実は3Dでモデリングされていた。非写実的レンダリング(NPR)を使えば、3Dスカルプトにフィルターをかけ、水彩画やトゥーンレンダリング風の画像が作成可能。

 

データを漫画やポスターのヴィジュアルに活用できるので、表現の幅を広げることができる。

ZRemesher v3.0

リポトロジーはスカルプト中に何度も行う作業。ツールのアルゴリズムが賢いと作業効率が上がる。自動リトポロジーツールのZRemesher v3.0は従来より利便性を高め、シャープな面の角度を自動的に検知したり、メッシュの流れを最適化してくれる。実演では鎖が制作され、輪の角落としに使用していた。

 

その他、2019年版には「サブツールへのフォルダ機能の追加」や「カメラ機能の強化」などが行われた。1999年に登場し、年々ブラッシュアップされていったZBrush。初期から使用し続けたユーザーには、機能の進化が感慨深いものを感じてしまうだろう。

 

さて、ここからは現場にフォーカスし、制作現場でZBrushがどのように使われているのかを見てみよう。

 

トップバッターはフロム・ソフトウェアの藤巻亮氏。DARK SOULSシリーズや最新作『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』を事例に、魅力的なキャラクター造形のコツを解説する。

フロム・ソフトウェアの藤巻亮氏が考える「魅力的なキャラクター造形のコツ」

『アーマード・コア』や『天誅』、近年では『DARK SOULS』など、ハードコアな世界観で歴代PlayStationの人気を牽引したフロム・ソフトウェア。

 

同社でリードキャラクターアーティスト/テクニカルアーティストとして活動する藤巻氏は2009年の入社以来、ZBrushの導入を推進してきた。

 

彼の講演は「魅力的なキャラクター造形」のレクチャーと、ZBrushを使った実演に分けられた。

 

「魅力的なキャラクター造形」のレクチャーでは、ワイバーンのスカルプトモデル(フロム・ソフトウェアとは無関係の作例)から、『アウトライン』『影』『色の明暗』の3つのコツが紹介された。以下に要点をお伝えする。

アウトライン

見るだけで「このキャラクターだ」と分かるシルエットを作ること。「羽根や角など、目立たせたい箇所を大きくする」「ドラゴンに比べて野生的なクリーチャーなので、知性はあまり感じさせないように」など、コンセプトから逆算してシルエットを形成したという。その際、生物としてのリアリティを感じさせるために骨格や筋肉の流れが崩れないよう意識していた。

影は情報を強調する要素。活用すればキャラクター性を上手に伝達できる。ワイバーンでは表皮の隙間や首の下面に意図的に影を作ることで、立体感を生み出した。

逆に、テクスチャや質感を強調したい箇所は影を抑え、情報が伝わりやすいように工夫を施しているという。ただし、ディテールを作り込みすぎると、どこを見ればよいか分からなくなってしまう。一部はシンプルにするなど、緩急が必要だろう。

色の明暗

色の明暗はデザインのほか、ユーザービリティにも関係する要素。例えばゲームでは敵キャラクターの弱点を見せ、攻略の糸口を掴ませることも必要だ。ワイバーンのカラーモデルでは攻撃手段となる角を明るく、表皮を暗く着色していた。色の対比が生まれることで、プレイヤーの視線は自然と角に集まり、「攻撃に気をつけて」など製作者の意図をアナウンスできる。

 

シルエット・色・ディテールは全てキャラクターを物語る情報。どこを強調し、どれを間引くか取捨選択が必要なのだろう。

 

続く実演ではZBrushのSculptris Pro(分割したボリゴンが自動で追加される機能)を使い、ディテールの造形が行われた。前半はChiselCreature ブラシを使ってドラゴンの下半身が制作される。
 

ChiselCreature ブラシは、クリーチャーのトゲやヒゲの制作に最適だ。任意の点から突起を作り、引っ張ることができるので、連続する突起もスムーズに造形可能。ここではVectorDisplacement も併用し制作を進めていく。

こうした細かい造形をしていると次第にポリゴン数が増えすぎてしまう。実演では、Decimation Master(ディテールを保ったままポリゴン数を減らすことができるプラグイン)でポリゴン数を減らしていた。

 

また、細かい突起を作成するときはポリゴンの変形や伸びも気になるだろう。この問題はZBrush 2018から追加されたSculptris Proを使うことで解決している。並行して表皮のディテールも造形し、ドラゴンの下半身が完成。ここまでわずか10分程度だった。
 

実演後半はマーメイドのスカルプトモデルを使って、NanoMesh機能を使ったディテール造形が披露された。

マーメイドは海棲生物らしさを出すために、表皮にエノキとフジツボをイメージした細かいオブジェクトをランダム配置している。

このような細かいオブジェクトをひとつひとつ造形するのは大変だ。しかし、NanoMesh機能を使えば登録したオブジェクトを自動で配置してくれる。密度や数もツールボックスの数字をいじれば自由自在で、作業効率もアップ。デジタルスカルプトならではの強みと言えるだろう。

余談にはなるが、講演で紹介された最新作『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』の義手モデルには驚いた。主人公は左手に仕込まれた義手を使ってワイヤーアクションを行う。このワイヤーの質感が実に細かい。荒縄のケバ立ちやほつれを忠実に再現しているのだ。

ディテールはFiberMesh機能を使って造形されたという。マスクするだけで加工できるので、覚えておいて損はない機能だろう。

フィギュア作りはフォルムが命、KOTOBUKIYA ツチヤトモミ氏の制作法

ZBrushの活用法はゲームキャラクターの造形だけではない。フィギュア制作に活用しているユーザーも一定数いるはずだ。

 

続いての登壇者は、フィギュア・プラモデルメーカーのKOTOBUKIYAで企画本部開発グループ原型チームに所属しているツチヤトモミ氏。ZBrushをツールに、漫画やアニメのキャラクターフィギュアを制作しているという。

 

フィギュア原型は最終的に物質への落とし込みが必要だ。この点で、ゲームや映像など画面上で完結する他の登壇者とは異なる。フィギュア独自のツール活用例はあるのだろうか?

 

彼女はまず、3DCGモデルの制作フローを説明した。その工程は大きく以下のように分かれているという。

  1. 素体制作
  2. 初期ポージング
  3. シルエット確認
  4. 3Dプリンターで出力し、全体のフォルムを確認
  5. 髪や顔など、細部の修正とディレクターチェック
  6. ポーズやディテールの微調整、パーツの分割

フィギュアは原作キャラのイメージがなにより重視される。制作前には、原作アニメやイラストを分析し、衣装や肌の質感などのキャラ「らしさ」を読み解き、原作者のインタビューにも目を通す。

印象的だったのは①〜④の工程において、キャラの髪部(ツインテールの部分)などをローポリゴンで進めていたこと。作業中はDynamic Subdivisionを使い、スムージング後のモデルを確認。ダイナメッシュは⑤⑥の工程まで使っていないそうだ。

キャラクターのイメージを追求するため、ポーズやフォルムの大きな変更は珍しくない。また、強度を考えパーツ単位で厚みの修正が入ることもあるそうだ。ローポリゴンで作業が進められているのは、そのような修正に備えるためだという。

 

セッションでは、ディレクターや監修者からの変更指示書も紹介された。「頭部を1%大きく」「お尻の谷間の肉を増やす」「膝のでっぱりと凹みを強調」など細かい指示が並んでいる。これもキャラクターのイメージを表現するため。原作ありきのフィギュア特有のモデリング事例と言えそうだ。

スピーチの次は実演。20分程度でスカート部のディテール作りが行われた。フィギュアに求められる最低限の厚みは1.5mmで、これより薄くなってしまうと素材が折れてしまう。その点に留意し、ZModelerのQMeshを使って、スカートの厚みを削っていく。

逆に根元部分、本体との設置部は外から見えず、強度を保つため太くしている。こうした工夫も物質に落とし込むフィギュアならでは。

 

完成したモデルがこちら。着色なしでも表情や髪型が活き活きしている。

また、ディテールにも独自のこだわりが。ツチヤ氏は関節の作り込みを大切にしているという。例えば、「ひざを曲げた時の骨の凹凸」「ふとももの肉の盛り上がり」など、骨格や肉のディテールを描写することで魅力的なフォルムが生まれると話していた。

スカルプトの基本は、シルエットやラインを整え、ボリュームや面を意識し、ディテールを彫り込むこと。その過程はフィギュア制作にも共通していた。ツチヤ氏が紹介したテクニックはゲームや映像領域でも活用できるはずだ。

 

今回の題材として使用した『フレームアームズ・ガール スティレット -SESSION GO!!-』の詳細は、以下のURLからご覧いただける。

https://www.kotobukiya.co.jp/product/product-0000003254/  

 

後編では、『モンスターハンター:ワールド』のスカルプトを行なったCAPCOMの為貝雅也氏・尾崎健太郎氏と、ベルギー出身のZBrushアーティストMaarten Verhoeven(マーティン・バーホーベン)氏が登壇したセッションをご紹介する。

 

CAPCOM の為貝氏・尾崎氏は「生態を感じさせるモンスターの作り方」を、Maarten氏は「制作期間1日でできる高密度モデル」の作り方を紹介している。どちらも3DCGデザイナーには学びの多い内容だろう。実際、編集部スタッフも目からウロコの連続だった。後編にもご期待いただきたい。

 

■後編:わずか1日で完成、キャリア10年のZBrushアーティストが明かす超速制作術【ZBrushMerge2019レポート 後編】

(近日公開予定。お楽しみに!)

映像で見るZBrushMerge2019

実は、今回のプレゼンテーションは全てYouTubeに動画がアップされている。会場の雰囲気を味わいたい方、使用ツールなどを詳しく知りたい方は、以下のリンクをクリックしてみよう。

 

Pixologic

 

 

フロム・ソフトウェア

 


KOTOBUKIYA

 

 

text:鈴木雅矩(スズキガク)

 

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